第6回 イギリスの鉄道博物館
February 2010
世界で初めて鉄道を実用化したイギリスには、様々な鉄道遺産が保存され、今でも多くの人々に愛されています。
その魅力をご紹介します。

イギリスには、鉄道博物館の数が多いのも特徴です。
大小それぞれの博物館がテーマを明確に打ち出しているので、どれを見ても飽きさせない魅力にあふれています。
世界の鉄道博物館の頂点に君臨する「国立鉄道博物館」

イングランド北部の古都ヨークにある国立鉄道博物館(NRM)は、その規模といいステイタスといい、世界一の鉄道博物館と讃えられています。
博物館の中は大きく2つのパートに分かれており、「グレート・ホール」では、イギリス鉄道史を鮮やかに彩る名機関車たちがずらりと顔をそろえています。目を引くのは、蒸気機関車として世界最高速度202.7kmを樹立した「マラード」。流線型の洗練されたデザインに真っ青なボディと、およそSLの石炭くさいイメージからかけ離れたこの機関車は、博物館の主役です。「マラード」の隣に配置された小さな黄色い機関車は、歴史の教科書でもおなじみの「ロケット」。1830年、スチーブンソンが世界初の営業鉄道として開業させたリバプール~マンチェスター間の路線を走った機関車です。こちらは、後年になって製造されたレプリカなのですが、世界最速の「マラード」と世界最初の「ロケット」が並ぶグレート・ホールは、鉄道王国イギリスをもっともシンボリックに現していると言えるでしょう。
もうひとつの展示場所「ステーション・ホール」は、何本ものプラットホームに機関車たちが並べられ、まさに駅(ステーション)が再現されています。ここにも数々の名機関車や客車があるのですが、もっとも目を引くのは王室専用車両(御召列車)ではないでしょうか。デスクにソファ、ベッド、お風呂まで入れられた豪華な客車でイギリス中を旅していたロイヤル・ファミリーの姿が目に浮かんできそうです。
奇才ブルネルの業績が見られる「スチーム」

ロンドンのパディントン駅から特急で1時間ほど行った所にあるスウィンドンには、「スチーム」と呼ばれる鉄道博物館があります。ここは、特にグレート・ウエスタン鉄道(GWR)の歴史を展示。イギリスの鉄道は、その誕生から第2次世界大戦が終わるまで、ずっと私鉄だけで運営されてきました。その1社であるGWRは、非常にユニークな存在でした。
GWRを創設したのは、イザンバード・キングダム・ブルネルという技師。橋梁や船舶の設計でも知られるブルネルは、自ら立ち上げたGWRの線路の幅を、2メートルを越す「広軌」に決めたのです。スチーブンソンが設定し、現在でもイギリスの鉄道で使われている線路の幅は1435ミリなので、それよりもはるかに広い線路を敷いたのです。線路幅が広くなれば車両の安定性が増しますから、GWRにはスピードを売り物にする機関車が次々誕生し、ブルネルは名声をほしいままにします。その後、他の路線との接続の利便性から広軌は廃止されてしまうのですが、このスチームでは、華やかな広軌時代を彩った機関車や客車が、ブルネルの業績とともに展示されているのです。
鉄道は芸術品?

イギリスには、そのほかにも鉄道関連の博物館がありますが、「鉄道」という名前が付けられていなくても、機関車などが展示されている博物館があります。鉄道を産んだイギリスでは、機関車は工業製品であると同時に芸術品でもあるのでしょう。そこには、イギリス人のプライドが込められているのです。
同時に、イギリスの鉄道博物館に展示されている機関車の多くは、ただ置いてあるだけでなく、常に走れる状態「動態保存」であることも特徴です。動態保存の機関車たちは、時に他の鉄道遺産へ出張し、乗客を乗せて元気に走り回るのです。NRMには巨大なワークショップ(整備工場)があり、常に機関車や車両の整備が行われていますが、それは、いつでも走ることができるようにしているからです。
秋山岳志
AKIYAMA Takeshi
編集オフィス「南風(Nampoo)」を主宰する旅行ライター。特にイギリスの運河、鉄道遺産を中心に取材している。主な著書に、『
英国運河の旅』、『
イギリス式極楽水上生活』、『
英国「乗物遺産」探訪』、最新刊 『
イギリス水辺の旅』など。
参考サイト