第5回 「きかんしゃトーマス」と鉄道遺産
January 2010
世界で初めて鉄道を実用化したイギリスには、様々な鉄道遺産が保存され、今でも多くの人々に愛されています。
その魅力をご紹介します。

世界中の子供たちから愛されている「きかんしゃトーマス」。絵本やテレビでおなじみのこのシリーズの原作者は、イギリス人のウィルバート・オードリー氏です。ウィルバート氏は、その作品の中で、実在の鉄道遺産をいくつも取り上げていることをご存知でしょうか?
イギリス鉄道遺産の原点『4だいの小さな機関車』

ウェールズには、スレート石を搬出するための鉄道がいくつも敷設されていました。そのひとつ、タリスリン鉄道は、廃線後にイギリス初の鉄道遺産として再デビューしたことで特に有名です。ウィルバート氏は、このタリスリン鉄道の設立当時のメンバーであり、自分自身もボランティアとして関わっていました。彼の作品のひとつ、『4だいの小さな機関車』(1955年)では、折り返し駅に車内販売の女性を置き忘れ、あわてて乗せに帰るというエピソードが載せられていますが、これは車掌として乗り込んでいたウィルバート氏の失敗談を元に書かれたものです。そのほかにも、タリスリン鉄道を題材に取った作品を彼はいくつも残しており、物語や絵の中に描かれているリアリティは、彼が実際に経験したところに根ざしているのです。出発駅となるタウィン・ワーフ駅には、ウィルバート氏が作品を執筆していた部屋をそのまま展示したスペースもあり、ウィルバート氏とタリスリン鉄道の関わりの深さを感じさせます。
ウェールズ最高峰、スノードン山に挑む『山にのぼる機関車』
標高1085メートルのスノードン山は、ウェールズの最高峰というだけでなく、イングランドも含めて一番高い山です(ちなみにイギリス全土での最高峰はスコットランドのベンネビス山)。ここで登山客を山頂まで運ぶために建設されたスノードン登山鉄道は、鉄道ファンからだけでなく、ここを訪れるハイカーたちからも人気の鉄道遺産になっています。人気の理由のひとつは、百歳を越えるSLたちが現役で活躍していること。この山に登るためだけに特別設計された機関車は、傾斜に合わせて前かがみになったユニークなスタイル。もうもうと煙を吐きながら斜面を登っていくその姿は、スノードン山の風景にはなくてはならないものです。ウィルバート氏は、このスノードン登山鉄道を『山にのぼる機関車』として一冊の本にまとめ上げました。スノードン山は天候が変わりやすいことでも知られているのですが、たびたび天候が荒れる中、必至で頑張る機関車や客車の健闘ぶりを、この本ではリアリティたっぷりに描いています。
「本物のトーマス」に会える「ディアウト・ウィズ・トーマス」イベント
イギリスの鉄道遺産の中には、「きかんしゃトーマス」に登場するキャラクターに出会える「デイアウト・ウィズ・トーマス」というイベントを開催しているところがあります。会場では、トーマス・シリーズで活躍する機関車たちの顔を付けたSLが何台も走り回るほか、絵本やテレビで紹介されたエピソードが実際に披露されたりもして、子供も大人も大興奮。このイベントは、1年を通して、全国の鉄道遺産を巡回して行われていますので、スケジュールをチェックして出かけましょう。
秋山岳志
AKIYAMA Takeshi
編集オフィス「南風(Nampoo)」を主宰する旅行ライター。特にイギリスの運河、鉄道遺産を中心に取材している。主な著書に、『
英国運河の旅』、『
イギリス式極楽水上生活』、『
英国「乗物遺産」探訪』、最新刊 『
イギリス水辺の旅』など。
参考サイト