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イギリスに滞在中のヴァージン特派員達が、イギリスの「今」の情報をお届けします!!

RICA プロフィール


ビートルズに始まるブリティッシュ・ロック、マーチャント&アイヴォリーの映画、森嶋道夫著『イギリスと日本』の洗礼を受け、精神的豊かさと最先端文化の発信地と信じた英国に移り住んで12年のライター/プロデューサー。
Ricaのコラム http://h3m.jp/


 

昨年暮れ、映画界の巨人、スティーブン・スピルバーグが、イギリスの児童文学の映画化権を買いました。 マイケル・モーパーゴ 作“War Horse”(軍馬)という作品です。

 

モーパーゴは数々の文学賞を受賞しており、心の琴線に触れるような美しい物語を書く児童文学作家です。私も子供たちを対象にしたモーパーゴ自身による詩の朗読会に行ったことがありますが、ご本人も少年のような心を持ち、とにかく子供を楽しませるのが大好きな方とお見受けしました。


War Horse”はモーパーゴの1982年の作品です。年齢を問わず、モーパーゴには固定ファンがいますが、とりわけこの作品が好きだという読者は多いようです。

 

モーパーゴが“War Horse”を書くきっかけになったのは、地元デヴォンの行きつけのパブでのある老人との出逢いでした。その老人は17歳の時、第一次大戦に兵士として駆り出されました。彼が戦場での不安と恐怖を打ち明けられたのは、当時、前線で一緒にいた馬だけだったとモーパーゴに話してくれたそうです。

 

この話を聞いてから数週間後、モーパーゴはある一枚の絵と衝撃的な出逢いをします。それは第一次大戦の前線で、イギリス軍の騎馬隊が丘の上の敵陣(ドイツ軍)の有刺鉄線に向かって突進する瞬間を描いたものでした。この絵を見たモーパーゴは、早速、Imperial War Museum(帝国戦争博物館)に電話をかけ、第一次大戦で犠牲になった馬は何頭いるのかと尋ねました。100万頭以上、と担当者は答えたそうです。しかもこの数字はイギリス軍だけのデータなので、参戦国全部合わせると800万頭はくだらない、と。モーパーゴは国境など知らない馬たちが戦場で何を目撃したのか、馬の目を通して戦争を語らせる物語を書いてみたいと思うようになりました。

 

ハイドパーク東側のPark LaneにAnimals in War Memorialという記念碑があります。2004年に建立されたものですが、これが民間からの寄付金3億円で賄われたという点が、イギリス社会のヒューマニティを物語っています。記念碑にはこう書かれています。「このモニュメントは英国及び同盟国とともに従軍し亡くなったすべての動物に捧げる。彼らには選択の余地がなかった」。

 

War Horse”が出版されてから25年後、英国国立劇場の演出家トム・モリスは、南アフリカをベースに国際的に活動するハンドスプリング・パペット・カンパニーをフィーチャーしたプロダクションの題材を探していました。彼は自身の母親から、“War Horse”を読むよう勧められました。2年間のワークショップの後、2007年に幕を開けた舞台”War Horse”は満員御礼のヒット作となり、イギリス演劇界のオスカーであるオリビエ賞をはじめ、イブニング・スタンダード賞、ロンドン批評家協会賞などを総嘗めしました。2009年からはウェストエンドのNew London Theatreに移り、来年まで上演される予定です。

 

物語の舞台は1914年、第一次大戦勃発直後のデヴォン。少年アルバートの愛馬ジョーイは騎馬隊に売られ、戦地フランスへ送られることになりました。ジョーイは前線で敵味方の両軍に仕え、様々な苦労を体験します。一方、ジョーイを忘れられないアルバートは、愛する馬を探す旅に出ます。果たしてアルバートとジョーイは再びめぐり会えるのでしょうか…。

 

この舞台の見どころは何といっても等身大のパペットです。竹のフレームだけで作られた馬を3人がかりで巧みに操作しているのですが、まるで馬の魂がのり移ったように思えるほど、生きた馬そっくりの細やかな動きを見ているうちに、それがパペットであることを忘れてしまうほどです。

 

 

 

 

ハリウッドのアニメーションみたいに動物が突然、人間のようにべらべら喋り出すことなく、馬の目線で戦争を描くなどということが可能なのか? モーパーゴのような作家とイギリス演劇の力をもってすれば、それは可能です。イギリスは倫理的テーマを戯曲として問題提起し、それを商業的に成功させることができる世界で殆ど唯一の国かもしれません。 

 

実は07年にこの公演の告知とモーパーゴのインタビュ―を新聞で読んだ後、私はずっと自分が探していた物語に出逢えたような気がして、すぐに国立劇場に足を運びました。観客はジョーイと一緒に戦場の臨場感を体験します。クライマックスでは周囲から一斉に感動のすすり泣きが…。

 

映画的スケールを持った作品なので、映画化されるといいなと思っていましたが、映像化は難しいかもしれないとも思いました。スピルバーグはパペットではなく、CGを使うと思いますが、彼によって映画化され、世界中の人にこの戦争の馬たちの物語が知られることをとても嬉しく思います。スピルバーグ自身は本を読んだのが先らしく、映画化権を買った後、今年2月にロンドンで“War Horse”を鑑賞したそうです。War Horse”の邦訳はまだ出ていないようですが、再来年の映画公開に伴い日本でも本が発売されることでしょう。


舞台“War Horse”は10歳以上の子供に推薦されています。会話は児童向けで分かりやすく、物語は至ってシンプルです。職人技が結集したジョーイの物語をぜひご家族でご覧いただきたいと思います。

 

New London Theatre

Drury Lane, London WC2B 5PW 

Tel 0870 890 0141 







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